ポップアップを始めたきっかけ

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ポップアップを初めて手にしたのは少し遅め、20歳を過ぎた学生の時です。平らだったものが立体になって動き出し、そして何事もなかったように平面に戻るという光景を目の前に、”これを追求したい!”と全身で感じました。うまく表現できませんが、私の知らない私が何かを思い出したみたいな感じがしました。以降ポップアップの原理や表現について独学を始め、もうすぐで10年になります。

独学するなかで特別に影響を受けたのは、イギリスのペーパーエンジニアのKeith Moseley氏です。ひとたび彼のポップアップが開かれると、まるで別の時空間に連れてこられたように感じます。また、それを実現させている型紙には、技術者としての繊細な配慮が隅々まで巡っていて、表現・技術両方の美しさにうっとりします。自分もいつかそんなポップアップをつくれるようになりたい、いま目に見えているものもその背景にある見えないものも全て解りたい、解った上で自分のポップアップをつくりたい。そんな想いでこれまで制作してきました。

憧れのペーパーエンジニア、Keithさんとの出会い

独学を始めて最初の5年間は、しかけの解明と習得・表現方法の摸索に夢中でした。けれどそれと同時に「ポップアップで役に立つ人になるには自分は何ができるのか・どうすれば役に立てるのか」というフライング気味の問いに勝手にもがいてもいたので、沸き起こる「楽しい!!」と「...これが一体何になる?」とが常に行き来する、非常に悶々とした日々を繰り返していました。

いま改めて振り返ってみると、そんな日々を過ごしていた2011年のある日ふと、「憧れのKeith氏に会ってみたい。会って、作品を見てもらって、自分のレベルを知りたい!」と思い立ち手紙を送ったことが、机上の範囲を出ない日々が動きだす、本当のはじまりだったと思います。

とはいえ残念ながら(今となっては良かったのか)、そう簡単にKeith氏には会えませんでした。サンタクロースに会いに行くような幕開けから念願の対面が叶うまでの2年、その間はさんざん周りの人たちにお世話になりました。ずっと応援してくれた家族や友人、快く力を貸してくださり一つ一つ丁寧に繋いでくださった国内外のみなさまには感謝してもしきれないし、この間経験したことこそに、大切なことを教わったように思います。お世話になったみなさま、改めて、ありがとうございました。

念願のKeith氏と初めて会えた日(忘れもしない2013年8月8日!)、その日は今まで感じたことのないぐらい幸せな日でした。やっと、彼のポップアップが大好きで尊敬していると伝えられたこと、肝心のポップアップ(let me bloomとCymbidium)を見てもらい本人の口から感想や意見を聞けたこと、そして自分の位置を正しく把握できたこと、初めて見る彼の作品の数々を紹介してもらえたこと、これまでの道中を話しながらお茶を一緒に飲めたこと、全てが嬉しくてたまりませんでした。

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Keith氏に譲ってもらった鉛筆。宝ものです。

そして翌年の2014年、ありがたいことに彼の元で約半年間過ごせることになりました。この期間ではKieth氏がもつポップアップの美学や、商業デザインとしてのポップアップのあり方、そしてそれを実現する術を学ぶことができました。一番尊敬している人のそばでポップアップをつくり、思い切り間違えたり悩んだり教わったりできるという有り難い環境のもと、ポップアップの表現にはまだまだ想像以上の広がりと深みがあり、それを追求する余地なんて制限なく存在することを体感し、武者震いする毎日。また、ポップアップだけでなく自然や人・人生の考え方についても、これまでの物理的・精神的な枠から一気に広がったように思います。

私がポップアップでしていくこと

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これまでを通してようやく見えてきた、私がポップアップですること。それは、

特別、アートとしてのポップアップは、”三次元に”時間”を加えた四次元の世界を、植物をモチーフにして表現したい”という目標があり、そうすることでポップアップを昇華させ、日本のポップアップというものを確立していく人たちの一員になりたいです。

 

さて。これからどんな人たちと出会えてどんなことが起こるのだろう。これまでどおり気持ちに体を追いつかせながら、いつかまたKeith氏に会いに行って一緒にお茶を飲めることを楽しみに、そしてお世話になった方々に恩返しできるよう、精進します。

 

2015.11.13 武田 裕美